広島地方裁判所尾道支部 昭和50年(ワ)44号 判決 1978年2月28日
原告 佐藤ユキミ
<ほか四名>
右五名訴訟代理人弁護士 藤原精吾
同 井藤誉志雄
同 前田貞夫
同 前哲夫
被告 常石造船株式会社
右代表者代表取締役 神原秀夫
被告 宮地工作有限会社
右代表者代表取締役 宮地美香子
右両名訴訟代理人弁護士 夏住要一郎
同 林藤之輔
同 中山晴久
同 石井通洋
同 高坂敬三
主文
被告らは、各自原告佐藤ユキミに対し、金五〇九万三八一七円と内金四〇九万三八一七円に対する昭和四九年九月一九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、原告佐藤満美子、同佐藤良示、同佐藤博貴及び同佐藤選に対し、各金二二一万三五三二円と右各金員に対する同日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は、これを一〇分し、その四を原告らの、その余を被告らの各負担とする。
この判決は、原告佐藤ユキミが各被告に対し、それぞれ金一〇〇万円ずつの、その余の原告らが各被告に対し、それぞれ金四〇万円ずつの担保を供するときは、その被告に対して、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは、各自原告佐藤ユキミに対し、金一〇六二万四〇〇〇円と内金八三二万四〇〇〇円に対する昭和四九年九月一九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、原告佐藤満美子、同佐藤良示、同佐藤博貴及び同佐藤選に対し、各金三一六万二〇〇〇円と右各金員に対する昭和四九年九月一九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 仮執行の宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二当事者の主張
一 請求の原因
1 労働災害事故(以下、本件事故という。)
昭和四九年九月一八日午後八時一五分ごろ、亡佐藤芳秋(以下、亡芳秋という。)外二名が、被告常石造船株式会社(以下、被告常石という。)構内の第一二号ドックにおいて、入渠中のあらびあ丸のプロペラシャフトにプロペラをはめこむ作業をしていたところ、作業に使用していた油圧式ジャッキの接続部のボルトが折損し、重量約一四〇キログラムのジャッキ受けが左右にわれて足場上に落下したため、足場板が折損し、同足場上にいた右芳秋が約五メートル下の渠底に墜落し、脳挫傷により同日死亡した。
2 被告らの責任
(一) 被告宮地工作有限会社(以下、被告宮地という。)の責任
(1) 債務不履行責任
被告宮地は、亡芳秋の使用者であり、雇用契約上、労働者が作業に使用する機械、器具、設備によって身体、生命に危害を蒙ることのないよう配慮する義務を負っている(労働基準法((以下、労基法という。)))一三条、四二条、労働安全衛生法((以下、労安法という。))三条、二〇条)。
しかるに、同被告は、その雇用する労働者亡芳秋に前記第一項の作業をさせるに当り、
(イ) 接続部のボルトが折損するような不完全なジャッキを使用させ、
(ロ) 物の落下によって、たやすく折損するような、丈夫でない足場板を使用させ、
(ハ) 事故当時使用したジャッキ受けを使用させるのは、初めてのことであったから、当該ジャッキ受けを二個に分解してつり上げ、シャフトにはめ込むなどの安全な作業手順を予め指示して作業させるべきであったのに、これを怠り、下部ボルトのみはずし、上部ボルトを取付けたまゝジャッキ受けをつり上げ、下部を左右に開いて、シャフトにはめ込むという誤った作業手順を指示して、これを行わせ、
(ニ) 前記作業場所があらびあ丸船下に設けられた、地上から高さ約四・七メートルの作業床であり、労働者が墜落により危害を受けるおそれがあったから、作業床下に防網を張り、または労働者に命綱を使用させるなど墜落防止の措置(労働安全衛生規則五一九条二項)をとるべきであったのに、これを怠り、何ら右措置を講じなかっ
たため、前記事故を惹起させたのであるから、民法四一五条により損害を賠償すべきである。
(2) 不法行為責任(予備的主張)
被告宮地は、被用者である常石出張所長藤田義則が亡芳秋を前記作業に従事させるに当って、同所長には前記(1)(ハ)(ニ)に述べたような過失があり、そのため本件事故を惹起させたのであるから、同被告は、使用者として民法七一五条により損害を賠償すべきである。
(二) 被告常石の責任
(1) 民法七〇九条の責任
被告常石は、労安法一五条一項にいう特定元方事業者に該当し(同法施行令七条一項)、自己の請負った船舶修理作業の一部を被告宮地に請負わせ、自己の事業場内において、亡芳秋ら被告宮地の労働者を指揮監督しながら作業を行わせていた。
このような場合、同被告は、作業に従事する労働者に危害が発生しないように、使用する機械、設備の安全性、作業環境、作業方法の安全性に関し、万全の措置を講ずべき法令上(労安法三〇条、三一条、三三条など)及び条理上の注意義務を負っている。しかるに、同被告は、
(イ) 亡芳秋が前記作業をするに当って、接続部のボルトが折損するような不完全なジャッキを、また物の落下によってたやすく折損するような丈夫でない足場板を使用させ、
(ロ) プロペラ取付作業に使用したジャッキ受けは、被告常石の所有に属し、かつ同被告が右作業を被告宮地に請負わせるに当り、これを貸与したのであるから、このような場合、被告常石のような立場にある者としては、右ジャッキ受けの正しい使用方法を指導するは勿論、被告宮地の労働者において誤った使用方法を講じている時にはこれを監督し、または是正するなど、貸与した機械、器具によって、労働者に危害の発生しないように注意する条理上の義務があるのに、これを怠り、使用方法を指導することも監督することもなく放置し、
(ハ) 前記のように、自己の作業場内で、その作業床を使用させて、被告宮地の労働者に作業をさせていたのであるから、このような場合、自ら法定の墜落防止措置を講じ、または被告宮地が右措置を講ずるよう指揮、監督する義務があるのに、これを怠り、右措置を講じず、また講ずるように指導せず、
右過失により本件事故が発生したのであるから、被告常石は民法七〇九条により損害を賠償すべきである。
(2) 民法七一五条の責任
被告常石は、同社機関課課長代理中浜盛道、同課足立市郎及び同社保安課課長代理圓藤年久をして、前記作業に関し、被告宮地及びその労働者を指揮監督させていたところ、同人らには前記(二)(1)(イ)ないし(ハ)に、また被告宮地の常石出張所長藤田義則には前記(一)(2)に述べたような過失があり、そのため本件事故を惹起したのであるから、被告常石は、同人らの使用者またはこれに準ずる者として損害を賠償すべきである。
3 損害
(一) 逸失利益
亡芳秋は、大正四年一二月二〇日生れ、当時五八才の健康な男子であり、被告宮地の仕上工として、毎月平均一八万四二八七円の賃金及び年間三三万五〇〇〇円の賞与を得ていたところ、生活費は収入の三〇パーセントであり、死亡当時における同人の就労可能年数は九年であるから、新ホフマン係数を用いて計算すると、次のとおり一二九七万三〇〇〇円の得べかりし利益を喪失した。
従って、右芳秋の妻原告佐藤ユキミ(以下、原告ユキミという。他の原告についても同じ。)が四三二万四〇〇〇円(千円未満切捨)、子であるその余の原告四名は、各二一六万二〇〇〇円の割合で相続した。
184,278×12+335,000=2,546,448(円)
(年間収入)
2,546,448×(1-0.3)×7.278=12,973,133(円)
(二) 慰藉料
亡芳秋は一家の支柱であり、原告らの良き夫、良き父としてこれまでつつがなく暮していた。不慮の事故により芳秋を喪った原告らの悲嘆は大きく、かつ労働者を使用して営利活動を営む被告らが当然履行すべき労働安全上の注意義務を怠ったことに起因するもので、その権利侵害性は極めて重大であり、その後の被告らの態度も併せ考えると、原告らの精神的苦痛を慰藉するには少なくとも原告ユキミに対しては金四〇〇万円、その余の原告らに対しては各金一〇〇万円の支払が相当である。
(三) 弁護士費用
被告らは、本件について誠意をもって応じようとせず、原告らは、やむなく本訴を提起することになり、原告ユキミは、着手金として原告ら訴訟代理人に金三〇万円を支払い、報酬として少なくとも金二〇〇万円の支払を約した。
4 結論
よって、被告らに対し、連帯して原告ユキミは、金一〇六二万四〇〇〇円と内金八三二万四〇〇〇円に対する昭和四九年九月一九日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金、その余の原告四名は、各金三一六万二〇〇〇円と右各金員に対する同日から支払ずみまで右年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求の原因に対する認否
1 請求の原因1を認める。
2 同2のうち、(1)被告宮地が亡芳秋の使用者であったこと、(2)被告常石が自己の請負った船舶修理作業の一部を被告宮地に請負わせたこと、(3)右の作業が被告常石の事業場内で行われていたことは認めるが、その余の事実は否認する。
3 同3のうち、(1)亡芳秋が大正四年一二月二〇日生れで、当時五八才の健康な男子であったこと、(2)同人が被告宮地の仕上工であったことは認めるがその余は争う。
三 被告らの主張
1 被告らには何ら責任原因はなく、本件事故はもっぱら亡芳秋の過失によるものである。以下、その詳細を述べる。
(一) 被告宮地の責任原因について
(1) 本件事故の直接原因はジャッキ受けの接続ボルトの破損にあった。
ところで右ボルト金具(径一二ミリメートル)は本来二枚のジャッキ受けを接続固定させるために用いられるものであって、その本来の用法で用いる限り、かくの如き破損はありえなかったのである。要するに、本件事故は、亡芳秋がジャッキ受けを前述の如き方法でプロペラシャフトにはめ込もうとしたため、接続ボルトに対し、限度をこえる荷重がかかり破損を招いたものであって、右ボルト自体には何らの瑕疵も存しない。原告らは、甲二九号証を援用し、接続ボルトに欠陥があったと主張するもののようであるが、右の計算式は、動的荷重その他当時の具体的条件を全く無視しているものであって、本件接続用ボルトが欠陥品であることを示す根拠となるものではない。
さらに、前記足場板は、労働安全衛生規則五六三条所定の強度を十分に備えており、その折損は一にかかって一四〇キログラムにも及ぶ重量のジャッキ受けが落下したことによる異常な荷重及び衝撃に起因するものである。
(2) 原告らは、本件事故が発生した当時、亡芳秋が現に行っていた本件作業のやり方(ジャッキ受けの上部を固定したまゝ下部の止具をはずし、左右に押しひろげてプロペラシャフトの上からはめ込もうとするもの)を目して所長藤田の指示に基づくものであったと主張している。しかし、所長藤田が本件のような作業のやり方を指示した事実はないのであって、同人は本件作業とは全く異なる作業方法を指示したのである。即ち右藤田はそれより先に亡芳秋のやったのと同一方法でプロペラシャフトにはめ込もうと試みたけれどもこれが成功しなかったため、亡芳秋らと夕食の交替をするに際し、訴外多田を介して同人に対し、ジャッキ受けを二つに分けシャックルを用いて別個につり上げ左右からシャフトをはさみ込んで固定する方法をとるべきことを指示したのであったが、それにもかかわらず亡芳秋はこの指示を無視し、あくまで自己の流儀を押し通して作業員二名を指揮し前示の如きやり方で作業を続行したのである。もし、同人が所長藤田の指示した作業方法をとっていたとするならば、ボルトの折損、ジャッキ受けの落下というような事故は発生しなかったと考えられるのであって、本件事故は一に亡芳秋が前記指示に従わなかったために惹起されたものなのである。この点に関する原告らの主張は失当であり、被告宮地に何らの責任も無いことは明らかである。
(3) 原告らは、本件ジャッキ受けは亡芳秋らが初めて使用するものであるから、予め安全な作業手順を指示すべきであったと主張している。しかし、本件ジャッキ受けをプロペラシャフトにはめ込む方法として、考えられるのは、次の三通りしかあり得ないのであって、このことは全くの素人においても容易に判断しうることであり、あえて指導を必要とするような難かしいものではない。即ち、一つは従来使用していたドーナツ型のものと同様、上下の金具を連結したままプロペラシャフトの先端からはめ込む方法、一つはシャックルを使用して片方ずつをつり上げ、シャフトの左右からはさみ込んで上下の金具を連結する方法(訴外藤田義則が亡芳秋らに指示した方法)、いま一つは下部の金具をはずし、両側から左右にひろげてシャフトの上部よりまたぐようにしてはめる方法(亡芳秋が事故当時試みていた方法)の三つである。しかして、この最後の方法によるときは、ジャッキ受け下部のひろがり具合が約二〇センチメートルが限度であって、これとプロペラシャフトの直径約五〇センチメートルとを対比すれば、それが不可能な方法であることは容易に判断し得ることである。現に訴外藤田義則は一旦この方法を試みたのであるが、不可能であると判断して直ちに中止し、前記第二のシャックルを用いる方法によることとしたのである。
被告らとしては、亡芳秋ほどの熟練者が、何故にかかる初歩的な問題について判断を誤ったのか、全く理解に苦しむところである。
要するに、本件ジャッキのはめ込み方法について、安全な方法を指導する必要性は全くないのであって、原告らの主張は当を得たものではない。
(4) 原告らは、被告らにおいて本件作業現場に防網を設置し、又は労働者に命綱を着用させるなど労働安全衛生規則五一九条に定める措置を講じなかった過失があると主張している。被告宮地においても労働安全衛生法違反の有罪判決が確定している現在、本件作業床に同規則五一九条にいう墜落の危険性があったこと、従って防網を設置し、または命綱を着用させるべき場合に該当するものであることを争うものではない。しかし、同規則に違反したことと、民事上の不法行為責任の有無とは自ら別個の問題であって、かれこれ同一に論ずべきものではない。即ち、労働安全衛生規則五一九条によって事業者に安全措置をとることが義務づけられているのは、開口部等の墜落の危険性がある場合だけであって、全ての作業床に関してではない。従って、開口部から墜落した場合には、同規則所定の措置をとらなかったことが過失となることは勿論であるが、本件の如く作業床自体が損壊して墜落した場合は、開口部以外から墜落したものであるから、同規則が事業者に安全措置を義務づけることによって発生を防止しようとした墜落事故ではなく、同規則所定の措置をとっていたとしても発生した事故であって、それゆえ同規則所定の措置をとらなかったことが直接本件事故についての被告らの過失に結びつくものではない。このことは規則五一九条第一項の措置を施していた場合の状態を考えれば自ずと明らかである。よって、原告らの主張はこれまた失当といわざるを得ない。
なお、被告宮地は、日常から従業員に対し、命綱を着用すべきよう指導してきたのであって、本件事故当時もドックサイドの車輛内に備置していたのである。しかるに、亡芳秋は、このことを熟知していながら、あえて着用しなかったものであって、命綱を着用しなかったことに起因する事故の責任については、自らが負うべきものである。
(二) 被告常石の責任原因について
被告常石に法律上何らの責任のないことは、前記被告宮地の責任原因について論じたところによってもはや明らかである。なお、原告らは、使用者責任とは別個に、被告常石は本件ジャッキ受けを貸与するに当り、正しい使用方法を教示指導すべきであったにもかかわらず、それを怠ったと主張するので、一言しておく。その法律構成はいささか明瞭を欠くのであるが、いずれにもせよ、被告常石にはかゝる義務はないのである。
けだし、被告宮地は船舶機械部品の仕上げ工事の専門業者であるから、作業に当り常用しているジャッキについての使用方法には十分通暁しているのであって、被告常石が云々すべき限りではないのである。亡芳秋こそジャッキの使用に慣熟していながら、あえて正しい使用方法によらず、しかも所長の指示を無視して間違った使い方をしたために、本件事故を発生させるにいたったわけである。この点における原告の主張もまた失当である。
2 過失相殺
亡芳秋は、被告宮地の従業員中の最年長者であり、仕上工として二〇年以上の経験を有する熟練者であり、若年の所長藤田を補佐する立場にあったものであって、他の従業員からボースンと尊敬されていた。しかして、本件事故の際は、亡芳秋がリーダーとして作業を指揮していたが、前記のとおり、作業引継に当り、右藤田からシャックルを使用すべく指示を受けたにもかゝわらず、軽率にも自己の判断を過信して、指示と異なる作業を強行し、本件事故を惹起させた。しかも、亡芳秋は被告らから常時命綱を着用するよう指示を受けながら、用意された命綱をあえて着用せず、転落死亡するに至った。従って、仮に被告らに損害賠償義務があるとしても、右の事情に照らし、相当大幅な過失相殺をすべきである。
3 損益相殺
原告ユキミは労働者災害補償保険法により、(1)昭和五二年一〇月までに合計金二一四万三二四七円の年金を受けており、また、(2)同年四月一日の支給決定で今後少なくとも年額金九四万八四五八円の年金の支給を受けることに確定している。従って、既払分についてはもとより、将来の給付についても、既に確定している以上、右年金の目的及び機能からいって、その給付予定額を原告ユキミの損害額から控除すべきは当然である。しかして、原告ユキミは大正四年一二月二日生まれであり、昭和五二年一一月からの平均余命は一八年であり、右決定額を現価に換算すれば、次のとおり一一九五万三四一六円となる。
948,458×12.603=11,953,416(円)
四 被告の主張に対する認否
1 右主張1は否認。付言すると、被告らは、藤田がジャッキの取扱について適切な指示をしたというのであるが、金尾に対し、「シャックルを取ってこい。」と命じたのみであって、亡芳秋に直接作業方法を指示したことはない。また、藤田自身が右ジャッキの扱い方を知らず、試行錯誤を繰返していたのであるから、仮に、指示を与えたといっても、もともと余り意味をなさない。従って、亡芳秋が同人の指示を敢えて無視したなどとは到底いえない。なお、亡芳秋が試みた方法は、ジャッキ受けの大きさ、形状、足場の状況、作業手順などからみて、無理な方法ではなく、自然で、かつ可能な方法であった。
2 同2は否認。
3 同3中原告ユキミが昭和五二年一一月末日までに受領した年金額は、合計金一九三万三二四七円であって、これを控除することは認めるが、就学援護金は控除の対象とならない。また、原告ユキミが将来受くべき年金については、現実に損失が補償されない以上、被告らが民法上の責任を免れる理由とはならない。
第三証拠《省略》
理由
一 請求原因一―(労働災害事故の発生)の事実は当事間に争いがない。
二 被告らの責任について
1 被告宮地が亡芳秋の使用者であったこと、被告常石が自己の請負った船舶修理作業の一部を被告宮地に請負わせたこと、右の作業が被告常石の事業場内で行われていたことは当事者間に争いがない。
《証拠省略》を綜合すると、
(1) 被告常石は、船舶の建造、修理等を業とするものであるが、訴外前田汽船株式会社からあらびあ丸の定期検査受検のため補修作業を請負った。被告宮地は、船舶機械の修理を業とするものであるが、昭和四九年九月初旬、被告常石から右作業に伴うプロペラシャフト、プロペラの取外しと取付けの作業を受注し、被告常石の修理工場第一二号ドックに入渠した同船のプロペラなどを取外したが、同月一八日午後四時過ぎ、受検を終えた右プロペラシャフトにプロペラを「仮はめ込み」した状態で他の業者から引継を受けて、これを復元することになり、被告宮地の責任者である藤田義則ら六名は、右取付け作業の準備を整えたうえ、プロペラシャフトにナットをはめ込む作業を開始し、同日午後七時ごろ、右作業が一段落したので、亡芳秋ら三名が夕食のため現場を離れ、藤田義則ら残り三名で、ナットの装着を完了し、次いで予め訴外常石鉄工から借受けて、渠底に置いてあったジャッキ受けをチェーンブロックを用いて作業床の高さまで引揚げ、右ジャッキ受けの上部をボルトで接続したまま、下部のボルトだけをはずして、ジャッキ受けの下部を左右に押しひろげ、プロペラシャフトにはめ込もうと試みたが、ジャッキ受けの下部が十分開かなかったため、これをプロペラシャフトにはめ込むことはできなかった。そこで、右藤田は、ジャッキ受けを元の状態にもどして渠底に下して、その作業を一旦中止し、金尾訓利に四分のシャックルを二個持ってくるように命じ、そのため同人は現場を離れた。その直後の同日午後七時四五分ころ、タ食をすませた亡芳秋らが現場へ帰ってきたので、藤田義則ら二名も食事のため現場を離れたが、その際、同人は、亡芳秋らにその後の段取りについては格別指示しなかった。
ところで、多田弘之は、現場に帰ってくる途中、右金尾から前記シャックルを持って行くようにとの引継を受けて、被告宮地の常石出張所に赴き、同事務所に格納してあったシャックルを探し出して、現場に向かうまでの間に、右藤田に会ったが、同人からシャックルを持って行ってるかと尋ねられただけで、他に特段の指示を受けたようなことはなかった。そして同日午後八時一〇分ごろ、現場にシャックルを携行したところ、亡芳秋と藤田哲次が前記藤田義則が試みたのと同様の方法でジャッキ受けを作業床よりも三〇センチメートル程度、高くつり上げ、これをプロペラシャフトにはめ込もうとしていたので、両名に藤田義則からシャックルを持っていくようにいわれたといって、これを示したが、そのまま作業を続けようというので、シャックルを用いることなく、自分がチェーンブロックの操作をし、右亡芳秋らが前記作業床から約八五センチメートル上ったジャッキ受けの下部を左右に押しひろげてプロペラシャフトにはめ込もうと試みた際、右ジャッキ受けの上部接続部のボルトが折損し、約一四〇キログラムのジャッキ受けが左右に割れ、作業床に落下したため足場板の一枚が破損し、その上にいた亡芳秋が約四・七メートル下の渠底に転落して脳挫傷の傷害を蒙り、同人は、右受傷により同日死亡した。
(2) あらびあ丸の前記補修作業は被告常石の機関修繕部の所管で、同部の技師が右作業工程、日程を取決め、その指揮をしてきたものであるところ、同日、昼間、同部機関課長代理中浜盛道は、前記藤田義則から従来用いていたドーナツ型のジャッキでは作業が困難であるのでこれに代るものを貸与して欲しいとの申出を受けたため、被告常石の工具類の保管に当っている前記常石鉄工に同人を同道し、同人をして右常石鉄工から前記ジャッキ受けの貸与を受けさせたのであるが、その際、右中浜や常石鉄工の係員は、右藤田からその使用方法を尋ねられなかったため、別段その説明をしなかった。そして、同日午後五時四〇分ごろ、右中浜から事務引継を受けた同課技師足立市郎は、現場に赴き、被告宮地の作業員が作業床で、命綱をつけることなく、前記プロペラ取付の準備作業に従事しているのを目撃し、また作業工程はプロペラの仮はめ込みの状態にあり、未だジャッキ受けはプロペラシャフトにはめ込まれていなかったことなどを確認したが、右作業方法などについて何ら指示や注意をすることもなく、そのまま食事のため事務所に一旦戻り、食事を終えてしばらく待機したのち、その日のうちに完了することになっていたプロペラの取付作業に立会うため、同日八時一五分ごろ、再び右作業現場に向かったところ、前記事故に遭遇した。なお、右ジャッキ受けは内経が四八センチメートル、縦の外経が一一四センチメートル、横のそれが一〇〇センチメートルであって、被告宮地の作業員が右ジャッキ受けを使用するのは初めてのことであった。
(3) ところで、本件作業足場は、被告常石が訴外壇浦組に請負わせて前記あらびあ丸の船尾に設置した工事用の足場であって、渠底から四・七メートルの高さの所に、舵の左側及び右側に沿ってそれぞれ二枚の足場板が設けられ(以下、それぞれ左舷側足場、右舷側足場という。)、その上で舵の前部にほぼ接着して二枚の足場板(その内プロペラ側に置かれたものが前記のとおり破損したが、その大きさは、幅二三・五センチメートル、長さ四メートル、厚さ六センチメートルである。以下、本件足場という。)が渡され、舵の前部を「コ」の字形に囲んだ形で設けられ、左舷側及び右舷側の足場には、それぞれ外側に沿って手すりが設けられているが、その内側と舵との間には、左舷側で約三三センチメートル、右舷側で約四四ないし五四センチメートルの、プロペラと本件足場との間には、広いところで約三八センチメートルのそれぞれ開口部があり、そこから墜落の危険があるのに右各開口部に接する足場にはいずれも囲い、手すり、覆いが設けられていなかったし、勿論右各開口部には防網が張られていなかった。なお、被告宮地は当日、前記ドック付近に駐車した貨物自動車内に命綱を数本準備していたものの、現場責任者である藤田は、作業員に命綱を使用させていなかったが、事故後の高所作業では命綱を用いるようになった。
以上の諸事実を認めることができ、右開口部に墜落の危険があるとの点については、これに反する前記藤田証言及び甲一九号証は《証拠省略》に照らし採用できず、他に前記認定を左右するに足る証拠はない。
2 被告宮地の責任
原告らは、被告宮地が前記ジャッキ受けをプロペラシャフトにはめ込むに当って、安全な作業手順を指示すべきであるのに、これを怠り、誤った作業手順を指示したため本件事故を惹起したというのであるが、積極的に誤った作業手順を指示したとの点については、本件全証拠によってもこれを認めることができない。ところで、事業者は、労基法四二条、労安法三条により単に労働災害の防止のための最低基準を守るだけでは足りず、職場における労働者の安全と健康を確保することを要請され、右責務に基づき、機械、器具その他の設備による危険を防止するため必要な措置を講じなければならない(労安法二〇条一項一号)ことは言うまでもないが、これらの規定から、直ちに原告ら主張の右作為義務が認められるものではないであろう。しかし、被告宮地の現場責任者である藤田は前記認定の方法でジャッキ受けをプロペラシャフトにセットしようとして、それができなかったものであるところ、右の事情を知らないで作業を交替した亡芳秋は、右ジャッキ受けのはめ込み作業を初めて行うのであるから、同人と同様の方法で作業をするうち、その操作の仕方を誤り、場合によっては、ジャッキ受けが大きく、しかも重量があり、夜間の、高所における作業のこととて、その身体の自由を奪われるなどして作業足場から墜落するなどの危険があることも全く予想されないわけではなく、藤田が金尾にシャックルを取りにやったいきさつからみて、容易にその作業手順を指示しうる立場にあったのであるから、被告宮地の責任者として、条理上その作業手順を示し、もって事故の発生を未然に防止すべきものである。のみならず、本件足場は高さ四・七メートルの作業床であり、そのプロペラ側及び舵側には、前記のとおり開口部で、墜落の危険のある個所があったものであるところ、前掲各証拠によると、作業のため囲い等を設けることが著しく困難であったことが認められるから、被告宮地は、右高所作業をさせるに当って、労働安全衛生規則五一九条により右各開口部に防網を張り又は亡芳秋らに安全帯(命綱)を使用させる義務がある(被告らも同条による義務があること自体は争っていない。)。
しかるに、亡芳秋の使用者である被告宮地は、右いずれの義務も怠り、ジャッキ受けの安全な作業手順を示さず、また作業床の開口部に防網を張らず、また亡芳秋に安全帯を使用させることもしなかったため、本件事故を発生させたのであるから、右雇傭契約に付随するいわゆる安全配慮義務違反による債務不履行の責任を負うべきものである。
3 被告常石の責任
既に認定したところから明らかなように、被告常石は、船舶の建造、修理等を事業目的とする会社であって、その修繕工場第一二号ドックで、前記あらびあ丸の定期受検のための補修作業のうち、プロペラシャフト及びプロペラの取付作業等を被告宮地に請負わせていたのであるから労安法一五条にいわゆる特定元方事業者に該当するというべきである。そして、同被告は、自己の作業場内で、その作業床を使用させて、被告宮地の労働者に前記のとおり作業をさせていたのであるから、このような場合、被告宮地の責任のところで述べたと同様の理由により自らその開口部に防網を張り又は作業員に安全帯を使用させるか、又は被告宮地やその作業員に右措置を講ずるよう指導、監督すべきところ、これを怠り、いずれの措置も講じなかったため、本件事故を惹起させたのであるから、不法行為の責任を負うべきものである。
4 被告らは、藤田義則が訴外多田を介して亡芳秋に対し、ジャッキ受けを二つに分け、シャックルを用いて別個につり上げ、左右からプロペラシャフトをはさみ込んで固定する方法をとるべきことを指示したのに、同人が自己の流儀を押し通したものであると主張するけれども、多田は、藤田からシャックルを現場に持っていくように指示を受けただけで、それ以上に具体的な指示を受けたわけではなく、右多田や亡芳秋は、藤田がシャックルを必要とするに至ったいきさつも知らないのであるから、これだけでは、藤田がジャッキ受けのはめ込み作業について適切な指示をしたということにはならない。なお、多田が右シャックルを現場に届けたときには、亡芳秋は、藤田が試みたと同様の方法で右ジャッキ受けを作業床の上までつり上げて、プロペラシャフトにはめ込む作業を開始していたのであるから、シャックルを用いることなく、そのままその作業を続行したからといって、そのことを一方的に非難することはできない。
5 被告らは、ジャッキ受けのはめ込み方法については、凡そ三通りしか考えられず、そのうち亡芳秋の用いた第三の方法が不可能な方法であり、第二の方法をとるべきであったことは容易に判断しうるところであるから、安全な方法を指導する必要がないと主張するけれども、《証拠省略》に照らし、右亡芳秋の用いた方法が全く不可能なそれであったとまで言切れるか疑問があるばかりでなく、この方法は、外ならぬ現場責任者藤田義則自身が試みた方法であることは被告らの自認するところであり、亡芳秋と同程度の知識、経験を有する藤田哲次も同人とともにその作業を行い、その作業を続行することについて何ら異議を述べた形跡もないことからすると、結果はともあれ、ジャッキ受けのはめ込み方法が被告らの主張するほどしかく明瞭であったとはいい難く、右主張も採用できない。もっとも、亡芳秋の地位や能力については、《証拠省略》中には同人がボースンと呼ばれ、右藤田にほぼ匹敵する指導者であったという部分があるが、《証拠省略》に照らして採用できない。
6 被告らは、被告宮地や藤田義則に労働安全衛生規則五一九条違反があったことは争わないが、そのことと民事上の不法行為責任の有無は別問の問題であるとして、本件のごとく作業床自体が損壊して転落したのは、開口部以外から転落した場合であるから、同規則が事業者に安全措置を義務づけることによって発生を防止しようとした転落事故でなく、同規則所定の措置をとっていたとしても発生した事故であって、同規則の措置をとらなかったことが被告らの過失に結びつくものではないと主張するけれども、《証拠省略》によると、亡芳秋が作業していた場所は、本件足場の左舷側足場に近いところであって、前認定のとおり、同人がいた足場とプロペラとの間にはかなり大きい範囲にわたる開口部があり、該足場の折損に伴いその開口部が更に拡張されて本件事故が発生したものと認められるし、また同条の措置が講じてあれば、本件事故を避けられたことが《証拠省略》によっても明らかであるから、いずれにしても右主張は採用するに由ないというべきである。なお、被告らは、日頃から労働者に対し、安全帯を着用するよう指導してきたし、事故当時もドックサイドの車両の中に安全帯を備えていたのであるから、被告らには責任がないというけれども、被告らに要求される同条二項の義務は現実的かつ実効のあるものでなければならないから、被告らが労働者に対し、普段書面や口頭で安全帯を使用するよう注意をしていたとか、現場近くの自動車内に安全帯を準備していたとかいうだけでは右義務をつくしたとは到底いえないから、右主張もまた採用できない。
7 なお、原告らは、被告らが前記作業をするに当って、接続部のボルトが折損するような不完全なジャッキ受けを、また物の落下によってたやすく折損するような丈夫でない足場板を使用させたと主張し、前者については、右主張に副う《証拠省略》は、要するにジス規格に適合したボルトであれば、ジャッキ受けの片側に少なくとも七九キログラム以上の力が加わらないと右ボルトが破損することはないところ、本件作業では高々六〇キログラム程度の荷重であって、それ以上の力が加わったとは考えられないから、右ボルトには瑕疵があったというのであるが、右供述結果によってもボルトのせん断力はそのゆるみ具合によって異なることがうかがえるのみならず、《証拠省略》によると、静的荷重が六〇キログラム以下であっても、その動的荷重は七九キログラムを上廻ることもあることが認められるから前掲証拠は直ちに採用できず、外に右各主張を認めるに足りる証拠はない(かえって、前認定の事実に《証拠省略》を併せ考えると、右ジャッキ受けはジス規格に、足場板は法定の要件に適合し、かつ疵瑕がなかったものと推認される。)から、右主張は採用しない。また、原告らは、被告常石がジャッキ受けの使用方法を指導、監督する責任があるのにこれを怠ったというのであるが、前記認定の事情のもとでは、被告常石に右使用方法について原告ら主張の作為義務があったとまでは考えられないから、右主張も採用しない。
三 損害
1 逸失利益
(1) 亡芳秋が大正四年生れで、事故当時五八才の健康な男子であったこと及び同人が被告宮地の仕上工であったことは当事者間に争いがない。《証拠省略》を併せ考えると、亡芳秋は、昭和四六年六月ごろ、被告宮地に入社し、仕上工として働き、毎月平均一八万四二八七円を上廻る賃金及び年間三三万五〇〇〇円の賞与を得ていたことが認められる。(なお、《証拠省略》によると、昭和四九年八月分の賃金は二万九九二円であることがうかゞわれるが、この賃金台帳の記載は手当の項目などの点で給付金額よりも少ない金額が記入されていることがあることが《証拠省略》から明らかであるし、また、前掲各証拠によると、亡芳秋は健康で、勤務態度もまじめであったが、同月分はたまたま腰痛で働くことができなかったため極めて少なくなっていること、同月分を除く最近数か月間の月平均賃金は右認定額を下らないことが認められるから、昭和四九年八月分は考慮にいれない。)そして、亡芳秋の生活費は、賃金の三〇パーセントを越えないと認められるから、同人の就労可能年数を六七才まで九年として、ホフマン式を用いて計算すると、同人の得べかりし利益は原告主張のとおり金一二九七万三一三三円となる。
(2) 過失相殺の抗弁について
亡芳秋が被告宮地の常右出張所で被告らの主張するような地位にはなく、また、右出張所の責任者である藤田義則の指示に反して作業をしたとまでいえないことは前認定のとおりである。
亡芳秋が現場の作業床には墜落の危険のある開口部があることを認識していたことは容易に推認される。そして、同人は、そのような場所にあって、前認定の方法でジャッキ受けをプロペラシャフトにはめ込む作業をしていたのであるから、右ジャッキ受けに加える力を調節するか、他に方法がないかを検討するなど細心の注意を払うべきであるのにこれを怠り、他の方法を考えることなく、またジャッキ受けにかなり強い力を加えたこと及び右作業に当って、安全帯を容易に使用できたのにこれを用いなかったことがいずれも本件事故の一因となっていることを否定しえないところ、前認定の事故の態様、被告らの労働者に対する安全配慮の欠如の内容と程度及び亡芳秋の地位、能力などを勘案すると、亡芳秋の被告らに対する過失割合は三対七とみるのが相当である。
(3) 損益相殺の抗弁について
被告らは、原告ユキミが労働災害補償保険法により、(1)昭和五二年一〇月までに合計金二一四万三二四七円の年金を受け、更に(2)同年四月一日の支給決定で年額九四万八四五八円の年金を受給することに確定しているので、同原告の将来受くべき年金の現価は金一一九五万三四一六円となるから、その合計額を損害額から控除すべきであると主張するので判断するのに、右(1)のうち、同原告が金一九三万三二四七円を受領したことについては当事者間に争いがなく、《証拠省略》によると、その差額金二一万円は就学援護費であって、いわゆる保険給付には当らないからこれを控除すべきでなく、また原告ユキミが将来受くべき(2)の年金については、いまだ現実の給付がない以上、たとえ将来にわたり給付が確定していても、これを控除することを要しないと解するのが相当であるから、前記金一九三万三二四七円の限度で、右抗弁は理由があるが、その余は失当である。
(4) 前記2の過失割合に従って計算すると、亡芳秋の逸失利益は金九〇八万一一九三円となるところ、原告らにはその主張のような身分関係があることが《証拠省略》によって明らかであるから、原告ユキミは三〇二万七〇六四円、その余の原告らは各金一五一万三五三二円を各相続すべきものである。しかして、原告ユキミが金一九三万三二四七円の損害の填補を受けたことは右(3)に認定したとおりであるから、前記金額からこれを控除すると、同原告の受くべき金額は、金一〇九万三八一七円となる。
2 慰藉料
前掲各証拠によると、原告ユキミと亡芳秋は昭和一九年九月七日婚姻し、その間にその余の原告ら四人の子をもうけ、円満な家庭生活を営んできたものであるが、原告らは、本件事故により一家の支柱であった亡芳秋を失ったものであり、その妻として、また子として多大の精神的苦痛を受けたであろうことは容易に推認されるところ、本件事故の態様その他諸般の事情に前記2の過失割合を斟酌すると、原告ユキミを慰藉する金額としては、金三〇〇万円が、その余の原告らのそれは、各金七〇万円が相当である。
3 弁護士費用
《証拠省略》によると、原告らは、被告らから任意弁済が得られないため弁護士に本件訴訟を委任し、原告ユキミが着手金として金三〇万円を支払い、かつ成功報酬を支払うことを約したことが認められる。
しかして、前記請求認容額、本件事案の難易、訴訟活動の経過など諸般の事情に鑑み、弁護士費用は金一〇〇万円とするのが相当である。
4 従って、被告らは、各自原告ユキミに対し、金五〇九万三八一七円と内金四〇九万三八一七円に対する本件事故の翌日である昭和四九年九月一九日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を、その余の原告らに対し各金二二一万三五三二円とこれらに対する同日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。
四 結論
よって、原告らの本訴請求は右説示の義務の履行を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求をいずれも失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき、同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 八束和廣)